遠くの世界

僕は小さな庭のついた家に暮らしているかもしれない。
そこでは子供が二人、ボールを蹴って遊んでいるかもしれない。
僕のとなりでは、ありふれた顔をした奥さんがありふれた笑顔を浮かべているかもしれない。
僕は彼女たちを守るために、上司からぶつぶつ小言を言われながらも必死に働いているかもしれない。
けっして裕福な暮らしではないけれど、そこには確かな幸せがあるかもしれない。
そして時々、昔のことを思い出すかもしれない。
でも、僕はもういろいろ大切なものを捨ててしまっているかもしれない。
だけど、目の前にあるとてもささやかで、とても平凡な暮らしを思うと満足感を覚えるかもしれない。
その頃の僕はもう音楽なんかやめて、昔の仲間とは連絡を取らなくなっているかもしれない。
みんなは僕をとっくに死んだと思っているかもしれない。
でも、僕にはそんなことはどうでもいい。
僕には僕の小さな世界があるんだ。
その頃の僕は、昔の写真も思い出も捨ててしまっているんだ。
小さな家の中で、小さな一生を終えるんだ。
それは間違いなく幸福なはずなんだ。



そうだよね？


土屋